あとひとり
大学生の頃。
市内の別大学に、同姓同名の子がいることを知った。
所属サークルが同じだったので、 大学間の交流会で本人不在で噂が回っていた。交流用の掲示板に「 一度お会いしてみたいです」「こちらこそ」 とお互い書き込んだりしたけれど、 スポーツ系のように試合があるわけではなく、 お互い存在を知ってから一年程は遭遇する機会もなかった。
ようやく会えたのは翌年の、市内サークルの合同ジンパ。
なんか親近感のある眼鏡っこがニコニコ近寄ってくるな… と思ったら、
「S大学の○■さんですよね? H大学の○■です!」
びっくりした。
「え、従姉妹とかじゃないの!?」
周りのサークル仲間もびっくりしてた。
身長ほぼ同じ。髪型もそっくりでどちらも眼鏡着用。 顔の輪郭はちょっと違うかなーと思うけど、 あまり大きくない目の感じとか全体に地味目な雰囲気とか…… 要するに、本人たちもびっくりするほど、よく似ていた。
「ドッペルゲンガーだ!」
「それ、会ったら死んじゃうやつだから!」
ビールが回って絡み始める酔っぱらい仲間たちを適当にあし らって、ちょっと離れたところでふたり、 落ち着いて改めて自己紹介をした。
私たちの名前は、 読みだけなら何かの申込用紙の見本に書かれそうなくらいありふれ ている。ただ名前を頻繁に書き間違えられた。
例えば「知子」と書いて「ともこ」と読むのに、 智子とか朋子とか。
なのでお互いまず学生証を取り出して、漢字を確認。同じ。
年齢は彼女の方が一つ下。
「ご兄弟は……」
「三つ上に兄がひとり」
「私の兄も三つ上……」
「母が専業主婦で……」
「はい」
「父は公務員です」
「……」
お互い、ちょっと無言になった。
「……お父さんの、お名前は……」
「◇◆、です」
「あ、うち●△です!」
「ですよねー!!」
ありえないと思いつつ、お互い一瞬、 父の名前が同じだったらどうしようかと思っていた。
その後、ご両親の出身地などについても話した結果、 本当にただの他人のそら似らしいという結論。 それから卒業までは、 サークル交流会のたびにネタにされて遊ばれた。
実は中学時代、クラスメートに一度、「昨日、お前の妹を見たぞ」 と言われたことがある。
妹なんていないと反論しても、 妹じゃないならあんなに似てるのはおかしい!嘘つき! とまで言われて、軽く喧嘩になった。
もしかしてあれは、 この同姓同名の彼女だったのかと訊いてみたら、 その当時はぜんぜん違う地域に住んでいたそうで、 別人らしかった。
「世の中には、自分と同じ顔が三人いるって言いますしね…… 」
残念ながら、三人目にはいまだ会っていない。