ごめんなさい。

亡くなった祖父の命日が近いので、本家へお参りに伺った。
15年以上前に亡くなったこの父方の祖父のことは、実は子どもの頃からちょっと苦手だった。
 
背の高い人で、若い頃から農業をしていて体格が良かった。祖母が小柄な人だったから、余計に大きく見えていたのかもしれない。
外で会う時にはいつも、キャメルのソフト帽をかぶって、スーツではないけどきちんとジャケットを着ていて、べっ甲のループタイをしていた。あまり笑わないし少しぶっきらぼうなところはあったけれど、話せば穏やかな人だった。
でも、なぜだかとても怖い人だと思っていて、あまり自分からは近づかなかった。
 
仏壇にご挨拶して、お茶をいただいた。
「おじいちゃん、きっと喜んでるねえ」
「でも私、おじいちゃんのことずっと、なんでか怖かったなあ」
「そりゃあなた、小さい頃に一度怒られたからじゃない?」
「……私なにしたの?」
 
祖父は久しぶりに生まれた女孫の私を、それは可愛がってくれたらしい。祖父と父は顔がそっくりだったので、幼い私は人見知りもせずに懐いていた。
でも祖父と父には、決定的な違いがあった。
そして幼い私には、その意味が分からなかった。
「おじいちゃんのお顔は、どこから頭なの?」
ソフト帽をぬいだ祖父の頭は、それはきれいに顔からつながっていた。
 
「それでおじいちゃん、もう○子には小遣いやらん!って」
「それは……たいへん失礼なことを……」
 
そういえば祖父がソフト帽を脱ぐたび、きれいな頭の形だなとか、やっぱり毛がないから日除けや防寒で帽子は欠かせないのかな、とかいろいろ思い浮かんだけれど、絶対にそれを口には出さなかった。
身体的特徴に言及しない礼儀をわきまえた子どもだったと、我ながら思っていたのに……経験から学習していただけだったらしい。