川尻の合流する町

20年程前。
北海道支社の事務員だった頃、東京本社が道内各市町村とある契約を交わすことになり、現地での事務窓口を担当した。
必要書類を揃えて本社へ送ると、担当課長が確認の電話をくださる。
「書類いただきましたー。札幌市、旭川市釧路市とー……」
大きな市はやはりよく知られているようで、特に問題なかった。
稚内って、こんな字書くんですねー(笑)」
読めなくても聞いたことがあれば、むしろ和やかムードだった。
 
当時、北海道の市町村は全部で212。
小さな町や村になると、道民でもなかなか全ては把握していない。そして本社の課長は、北海道には来たこともなかった。
 
「えー……オスタケ町、ですかね」
「オスタケ?」
「男の雄に、武士の武で……」
「あ、オウム町です」
 
「クンシフ?」
「(訓子府か…)クンネップですね……」
 
「オキト町」
「…はい」(オケト(置戸)だけどまあいいや)
 
今ならネットですぐ調べられることだけれど、当時はまだ社内の個人PCはネット接続されておらず、Google Map なんて存在もしていなかった。
 
「ウラ……えー……占うに、冠」
「シムカップ、です……」
 
「キョウブ町」
「キョウワ(共和)町ですか?」
「興味の興に……」
「ああ! オコッペ(興部)です」
「────はあ!?」
「すみません……」
 
アイヌ語由来が多い北海道の地名は、意味を調べたりするとすごく面白いんだけどね……。
 
「当て字が多いので、ちょっと読みにくいですよね……」
「読みにくいっていうか──読めませんよねえ!?」
「……すみません」
 
文句は松浦武四郎さんに言ってください、とは言えなかった20代の思い出。